遊星からの物体X THE THING

ジョン・W・キャンベルの書いた原作は、3本映画化されています。

最新版は1982に作られた映画の前日譚で、ノルウェー基地にて掘り出されたUFOの乗組員が、地球人類を汚染していく過程です。

82年版の構造をオマージュしている部分が随所にあり大工監督がエスケープ・フロムLAで自己カバーしたときのような楽しみ方ができる一方、米国から召集された調査要員がヘリでノルウェイ基地に向かうところは、どっかで見たパクりで、行った先にプレデターが出たなんてことになるのかな? と不安を感じてしまいました。

THE THING 2011

THE THING 2011

遊星よりの物体X The Thing from Another World 1951

THE THING 1951

THE THING 1951

原作にかなりの手を加えられています。のどかで、まったりした映画となっています。

遊星からの物体x ビギニング THE THING 2011

THE THING 2011

THE THING 2011

遊星からの物体Xといえば、変幻自在に変態する異星人のおぞましい姿が見ものです。

このリメイク作品は、カート・ラッセル主演で1982に制作された大工監督が取り上げた原作にきわめて忠実な作品のプリクエル = 前日譚として仕上げられています。

前作から29年も経ってしまいましたが、最後のスタッフロールが流れる部分で、82年版の開始部分を丁寧に作りこんでいます。

劇中、82年版にも登場した、顔が2つ溶け合っているようなおぞましい怪物の焼け残りがいかにして生成されたのか、一度も登場していないノルウェイのヘリコプターが、どのように話しに絡んでくるのか? 銃をぶっ放しているひげ面のオヤジとあるはずのないグレネードがどこから調達されるのか、などの疑問にきれいな回答を提供しています。

THE THING 2011 公式サイト

キャンベル原作のカルトモンスターのくせに、映画会社にやる気が無いのか、とてもショボイです。

初期と公開後のトレーラー比較

予算の関係なのか、メンツもプロットも大幅に変更された模様。

重要な連続性

大工のベンベン節
芝居の初めと終わりに、エンニオ・モリコーネ作曲の有名な82年版メインタイトルがかります。

前作ではライトモティーフ = 示導動機 よろしく、終始不安感をあおる曲が低く流れて、この世の果ての信じられない出来事を演出していましたが、今回のBGMは、いまいち存在感がありません。ラストで女性科学者が一人だけ生き残るところに使われている曲は控えめながらもカタルシスを感じさせます。同様の演出はグローム・レーベルがスナイパー用に作曲した曲にも見受けられます。

そもそもこのメインタイトルは、大工監督が予算削減のために自分で作曲して画面に音を当てるときに多用されるベンベン節の流用で、たぶん前回もエスケープ・フロム・ニューヨークで大うけした関連で、大工監督がモリコーネ氏にとくに頼み込んで「ぜひベンベンしてください」と作曲してもらったものだと思われます。

ラースは英語をしゃべることができない
火炎放射器を振り回して、肉体派格闘技を披露する豪傑のラースさんですが、登場時には「彼は英語がしゃべれない」と紹介され、学者仲間から一歩引いたブルーカラーとして描かれています。しかしこの種の現場では野生の感で行動できる人間が自然淘汰される関係で、かなり高い生存率を誇っています。

流れの上でわざわざ詳細な説明をしなくても良いものをと思わせられるのですが、これはとても巧妙な伏線でした。

彼は芝居の途中で行方不明となってしまいますが、どこかで気絶していたらしく、最後に息を吹き返して駆けつけたヘリのパイロットともども、逃亡する犬を射殺しに旅立ちます。

真っ黒のヘリ、特徴のある機体のデカール、ひげ面でゴーグルをかけたオヤジ顔、構えた突撃銃、それらの先には、82年版の悪夢が拡がっていきます。

けれども雪原を走り回る犬は喜び勇んで駆け回っていて、広いところで走り回れるし、本人の先にはいつものトレーナーが「こっちおいで」と手招きしている関係で、とても楽しそうですね。

The Second Unit 撮影第二班
今回の前日譚ができた大きなきっかけは、前作で撮影第二班が撮ってきた説明部分です。

原作ではUFO、正確には潜水艦のようなものが氷原の下に埋まっており、これを発掘・回収するのはノルウェイ隊ではなくて、同じアメリカ隊の作業です。けれど大工監督はその部分の撮影の手間を省くために撮影第二班に作業させて、たぶん一日で記録フィルムを作っています。そうすることでカート・ラッセルたちの負荷を減らし、低予算で仕上げているものと思われます。

もしもこの部分を大工監督が律儀に作っていたとしたら、今回の2011年版が作られることは無かったでしょう。すべては低予算にまとめるための大工監督と撮影第二班の作業によるきっかけが功を奏したものと思われます。

アドウェール・アキノエ=アグバエ
アグバエ兄貴の顔写真

欲を言いますと、黒人の操縦士は、もう少し長生きして活躍してほしかったですね。このキャラクターは、前作で超若いころのキース・デビッドが演じたバイタリティーの塊を想起させる役柄です。ついでにヘリのパイロットもやっているので、前作でカート・ラッセルが演じたマクレディー役のキャラも被っています。

ちなみに原作ではマクレディーはパイロットではなくて、南極基地の副長です。ガリー隊長が亡くなったあとで、その力を発揮して指揮を取るのが、読んでいて面白いところです。

演ずるアドウェール・アキノエ=アグバエは、LOSTやボーン・アイデンティティなどで活躍するモデル出身の人です。ざっと見渡すと、この兄貴が一番頼りがいがあるので、生き残る確率は高いと思っていましたが、ちょっともったいないです。逆に慎重なだけの女性古生物学者が最後までサバイブするというほうが、ちょっと信じられません。

これはいいアイデアだ 物体Xの見分け方

主演のメアリー・エリザベス・ウィンステッドが、その精緻な観察力から偶然発見する物体Xの見分け方は、今回のリメイク作品で重要なポイントアップ要素です。

原作でも、82年版でも、隊員が物体Xに感染しているか否かということは、大変調べにくい方法として謎を残していきますが、いかんせん90分の映画でこの部分を繰り返すと流れを遮ってしまうことになりかねません。そこで今回は、簡単に判別する方法を提案していますが、これは脚本家がよく働いた証拠です。びっくりするほど簡単で、しかも素人にも分かりやすく、単純なものほど美しいという科学の原理に沿っています。

それにしても主演のメアリーさんは、今回とっても美人です。
ダイハード4.0ではブルース・ウイリスの家のTomBoy = おてんば娘、デス・プルーフでは生活感のない美少女で、モンスター・アイランドのちょっと逝ってしまったお嬢さん役など、あんまりたいしたことのないように思っていました。ファイナル・デスティネーション3でもいわゆる、ちょっと美人の女の子という軽い雰囲気を受けてしまいますが、今回の科学者役は、ハマっています。趣旨は違うでしょうが、ニコール・キッドマンのような安心感が見て取れました。

メアリー・エリザベス・ウィンステッド = モンスター・アイランド

THE THING 2011

THE THING 2011

同作品にはダイハード4.0でブルース・ウイリスの娘役を演じた勝気なお姉さん、メアリー・エリザベス・ウィンステッドが出て来ますが、彼女の代表作は、なんと言ってもモンスター・アイランドでしょう。IMDbの評価を見るとずいぶん低いのですが、私はこの映画が大好きです。

Mary Elizabeth Winstead

Mary Elizabeth Winstead

最近、劇場で見てきたリンカーン大統領のゾンビ狩の映画では、題名は長くて忘れましたが、彼女はなかなかいい演技でした。いや、正確にはメアリーさん以外に知っている役者があまり出ていませんでした。リンカーン大統領の本当の奥さんも名前がメアリーで、ちょいと面白い符合です。

老害トラブル・メーカー

最初から出てきて、調査を進めていく博士がヤバイです。

ノーベル賞に目がくらみ、危険なことは想定外。
やらなくても良いことをやって被害拡大まっしぐらの姿勢は、フィースト2に出てくるハゲの間男が原型でしょうか?

で、回収していない伏線は?

本作で完全に回収されていない伏線は以下のようになります。

メアリー・エリザベス・ウィンステッドが生き残った
掘り出された円盤が地球に残った
1については、二通りの解釈が挙げられます。

女性科学者が、じつは物体Xに感染していると考えれば、そのまま母国アメリカへ戻って、この世界の滅亡を招く。
ないし、基地の機材だけで円盤を修理して母星に帰る。
その可能性を考えると、最後の殺戮合戦は、感染者同士の生き残り戦となっている。
物体Xの世界では、ひとつの惑星はたった一人の異星人から征服の歴史が開始されるという壮大な運命を感じることができます。
たった一人の異星人ならば、名前にはTheがついて The Alien となります。
同様に、この世界でただひとつのものとはThe God = キリスト教の神で、異星人も感染という手法を駆使して、最初から一人で世界を創りかえるのではないでしょうか。
感染していなければ、救援隊が来るまで基地の中で春を待ち、前後して発生した米国基地での事件原因を世界に伝える。
基地に戻ったものの、残っていた物体Xに殺されてしまった。そして犬に変態して82年版に続く。
なんせ、血の一滴でも自己複製して生き残る物体Xですので、油断は禁物です。

2については、原作では美しいオーロラという最終章で、棚から牡丹餅のオーバーテクノロジーが手に入った生存者たちは「これで人類も宇宙に行ける」とわくわくテカテカの明るいラストを迎えるというまとめ方をしています。

簡単に言いますと、続編は銀河内部を探索できる第三期文明のSFに譲っているわけで、原作者のキャンベルがやりたかったのは南極基地という閉鎖空間での昔からよくある憑き物による大騒ぎです。

ブラム・ストーカーが原作者として有名な、一連の吸血鬼小説などは、陸の孤島など逃げることができない場所で、見たこともない真の恐怖から逃げ回るという趣旨の筋書きで、リドリー・スコットのエイリアン、無数のゾンビ作品、2001年のハルなどがこの焼き直しといえます。ジェイソンに至っては、いちゃつくカップルをばっさり殺すところから風紀委員長の役割も入っています。

Plot holes プロットの穴

実はエイリアンの前日譚、プロメテウスでも気になっていたのですが、この物体X2011と、プロメテウスには、話の大筋で、明らかな論理的矛盾が潜んでいます。簡単に表にまとめてみます。

THE THING 2011 プロメテウス
宇宙人の乗り物 10万年前に墜落した円盤型の恒星間宇宙船 数千年前に乗組員に多大な損耗を受けて機能不全になった例のU字型の恒星間宇宙船
最後の乗組員 うかつに船外へ出てしまったアホが、一人だけ氷漬けになる。 多分ステイシスフィールド = 時間停滞域で保護された乗組員が地球のアンドロイドによって覚醒させられる。
宇宙船の再起動状況 解凍された物体Xが人間に同化してなんの調整もなしに再起動に成功する。 こちらも今までのダメージがまったく無かったかのように、簡単に再起動する。
不可解な疑問 上記のように、簡単にシステムを再起動でき、かつ船体上部に凍結した氷原をも、たやすく除去できるのなら、なぜすぐに帰還しなかったのか? 恒星間航行のできる技術を持っていれば82年版のど頭に表現されている不意の墜落が現すトラブルに対しても、なんなく対処できるのではないか? おそらく搭載していた最終兵器が暴走して、乗組員のほぼ100%が全滅し、実験、実行という一連のミッションが途切れたものの、その種の危機的状態に対処するため、最初からステイシス・フィールドで保護されたクルーがブリッジに残っていたものと想定されます。しかし、しばらくして安全が確認されたあと、そのクルーを自動で覚醒させるフォールト・トレラントシステムが組み込まれていないのがとても不思議ですね。
平たく言うと 円盤が簡単に再起動しては筋書きが全部お釈迦になってしまいますぜ。 あのU字型の宇宙船はギーガーのデザインですが、先端には片方だけ盲腸のような突起があり左右非対称。よく考えると原型は人間の大腸ですな(関係ないか?)
両者の共通点 自分たちの遺伝子をばら撒くためだったら自己犠牲は厭わないこと。少数は多数のためにあるというヴァルカン式の哲学が感じ取れますなぁ。
しかしプロメテウスに出てくるあの黒い液体はなんでしょうか? 金星ロケット発進すにもドロドロした原油のようなマクガフィンが出てます。プロメテウスでは進化を促進させる目的を暗示しているようなので、どことなく2001のモノリスという固体の象徴から、こんどは液体でやってみるかという成り行きになったみたいですね。

遊星からの物体X The Thing 1982

THE THING 1982

THE THING 1982

カート・ラッセル主演、監督、大工のオヤジ。いまや大人気、キース・デビッドも出ているぞ。

やられてしまう被害者のうち、ノリス役のおっさんは、後にダンテズピークでピアース・ブロスナンの上司役で出演しています。地震観測局の責任者なので、なかなか避難勧告を出す決定ができず、自身も大波に飲まれてしまいます。

カーペンター監督の作品としては、ニューヨーク1997と並ぶカルト作品。おそらくカート・ラッセル自身、この映画あたりから世界的に大ブレイクして行け行けどんどんになったものと思われます。

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